とけ爺のおもひで

小江戸にある上屋敷に佇んでいた振り子の古時計。彼の前には刀を腰に差した武士たちが行き交っていた。
そんな忙しない中、ただ一人だけ古時計である自分に言葉をかける女性がいた。


「いつもご苦労様」そう言ってから彼女は古時計の掃除に取り掛かった。
女中である彼女が掃除に来るのは、自身が定時を知らせる音と時の鐘が鳴る時刻。
いつからか鐘の音が聞くのが古時計の楽しみになっていた。

 

そんな日が続く中、小江戸川越が火の海と化した。1893年の川越大火である。
古時計が居た屋敷も炎に包まれる中、逃げ遅れた者がいた。あの女中であった。

 

力尽きたのか、動けなくなっている彼女を見て、助けなければと思った矢先、動けるようになっていた。

安全な場所に彼女を置いて古時計は姿を消した。