重箱嬢のお話

 

大正時代の頃だったかと記憶しております。私はかつて、とある良家のお嬢様の嫁入り道具でございました。ご両親は一人娘のお嬢様をたいそう可愛がっておられました。お相手は政界を牛耳る帝国議会議員の長男。いわゆる政略結婚というものです。しかしお嬢様は嫁ぐ日を待ち遠しく思っておられました。

そしてお嬢様は嫁がれ、私もお嬢様の後を追い嫁ぎ先へ送られました。幸せな夫婦生活が始まる、私もそう思っておりました。しかし幸せは長くは続かなかったのです。
 

お相手の旦那様。容貌も良く、どなたにもお優しい。ただこれは表の顔でございました。裏の顔はそれはそれは恐ろしいものだったのです

旦那様は毎日のようにお嬢様に酷いことをしておられました。何度も何度も、お嬢様がどんなに泣き叫んでやめてと請うてもそれは終わりませんでした。政略結婚ですから実家に帰ることなど許されません。お嬢様は毎晩、枕を涙で濡らしておられました。
 

そのうちお嬢様は旦那様がお家にいない間、ひっそりと私に話しかけるようになりました。涙を流しながら独り言のようにぷつぷつと…何故私は人間のように言葉が話せないのかと、何度も自分を責めました。

 

そんな毎日を送っておりましたある日…

いつものようにお嬢様が私に語りかけておりましたら、なんとまだ帰って来ないはずの旦那様が後ろに立っておられたのです。…気づいた時には、私の頭は無残にもバラバラになっておりました。必死で止めるお嬢様をよそに旦那様が私を壊してしまったのでした。しかし驚くにはまだ早かったのです。

部屋から出て行こうとする旦那様をお嬢様が静かな声で呼び止めました。その次の瞬間、…旦那様のお腹からは大量の血が流れ出ておりました。お嬢様が近くにあった包丁を手に取り、旦那様を刺してしまわれたのでした。

この後のことについては私は何故か覚えておらず、気がついたら私の重箱頭に身体がつき、袴を身につけ、重箱の付喪神になっておりました。そして隣にはあの旦那様を刺した包丁が、ともに寝かせてありました。

そして、ただの重箱であったときとは、一つ変わったことがございました。もともと重箱の中は黒く塗られていたのでございますが、付喪神になったときには何故か【真っ赤】に変わっておりました。

何故変化してしまったのかは皆さんのご想像にお任せいたします。