ついにきた
きた、ついにきた。
延命地蔵尊の右側に人が入れる程の脇道が現れた!
石畳の細い道が続き、しばらく歩いていると急に目の前が開けた…と思ったら、目の前には小さな橋があった。後ろを振り返ると、延命地蔵尊がいる。その左に細い石畳の脇道。
鏡の裏に来た気分だ。
提灯の灯りも消え、扉も閉まっていたはずだが、この延命地蔵尊は禍々しいまでに赤く、煌々と光る提灯で染まっている。濃い青色をした川にかけられた小さい橋を渡ると、たくさんの店が並んでいた。店先で飲んでいるものも多く、活気あふれる台湾の夜市のようだ。
犬のようなのと猫のようなのが談笑していたり、ぶよぶよとよくわからない形状のものが勢いよく麺を吸い上げていたり、とにかく、人間ではないものたちがそこにいた。
不意に、ぶよぶよのものがこちらを見た。見たといっても目がないのでわからないのだが、見た気がした。そして「人間」と泡を含んだようなガラガラとした声で言うと、全員がこちらを見た。
思わず後ろを振り返らずに走り、脇道に飛び込み、来た道を戻った。
気づいたら、延命地蔵尊の前にいて、まだ脇道は開いていたが、さすがに戻る気にはなれなかった。